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■ '05.初秋 青森へ

津軽こぎんの展覧会の情報を発見。昔、日常使われていたこぎんの着物を見られる機会はあまりないからと出かけた。大きな会のある青森市から足をのばし、こぎん展のはしごをして大正解。
初秋の北国の風景を眺めながらの、ゆったりした時間でした。

青森市街 / 津軽鉄道-往路 / 津軽中里 / 津軽鉄道-復路 / 青森の夜 / 稽古館 / 名残惜しく
  青森市街にて
 新幹線はやてから特急に乗り換えて、東京から4時間半の旅。
さすがに遠い。そして、特急白鳥の駅到着メロディーも、青森市街の交差点もなぜか「チゴイネルワイゼン」なのが謎。交差点でよく聞かれるのは「とおりゃんせ」だったり、ピッポー、ピッポーなのだけど。
到着したホテルのロビーで、こぎん展のチラシを発見。早速ゲット。
チラシ

■刺しこではないよ、後ろの写真は、まさしく こぎん刺し・・・


この日は翌日のために、休むのみ。
   津軽鉄道の旅 -往路-
朝、疲れ具合を見計らいつつ、やはりもう一つのこぎん展行きを決意。
それには、さっさと出かけないと辿り着かないので、急いで身支度。
まずは五所川原を目指し、電車に乗る。混んではいたけど、座れてラッキー。
途中、川部で乗り継ぎ。田舎がバリアフルなのを忘れていた…(エスカレーターなどなく、階段上り下り〜はあ)。
のんびりと待合室で時間を過ごす。寝台特急が目の前を通過。ああ、朝もそんな時間なんだ。眠い。そして、こんどは空いた列車に乗って、五所川原着。
他の人たちの後についていき、津軽鉄道のホームへ。列車の入口で車掌さんが切符や絵葉書を売っている。終点までの切符を求めると、紙にパチンパチンとパンチを入れている。後でよく見ると、発着駅と料金が記されていた。なんだか、時間の流れが違うなあ。
電車

■行きも帰りも 走れメロス号(途中に太宰治の生地がある)

乗り込むと、さっそく発車。中も、いろいろとものめずらいものがある。
車窓を眺めると、モンシロチョウがあちこちで舞っている。稲が穂を垂れている。青森が明るく彩られる季節に来られたのかな。
   津軽中里にて
小さな駅。小さな待合室に、博物館のこぎん展のポスターがあり、おおっ。
poster

■「名もない津軽の女達よ、よく是程のものを遺してくれた」(柳宗悦)

すぐに出発する気になれなくて、駅横に入口のあるスーパーへ入りこむ。この地独特のものはないかと思いながら見ていったけれど、疲れのせいで細かくは見られず、これというものはみつからずじまい。
駅を出ると、そばのタクシー会社の人の視線を感じる。みかけん人だと思われてるんだろうね。
徒歩10分とあった博物館へ向かうべく、日の差す道を歩き出す。といっても、地図では駅を背にしてまっすぐの道が、細く、曲がっていく。ここでいいんだか?あんまりひとけもないし、なんだかそのまま行こうという気になり、ずんずん進む。途中の分かれ道、看板で一方が行き止まりそうなので、進む道が決まり、さらに行くと、また分かれ道。今度は迷う。引き返そうとも思いつつ、遠くに自動車の走る音=広い通りがあるはずと、そちらへ進む。大正解。
この地区の要と思われる五林神社を通りすぎ さらに進むと、民家続きだった今までとは違う雰囲気、大きな建物が見えてきた。近づくと、広めの道路の向うにどうやら博物館の入っている複合施設パルナスが。いやあ、よく来たなあ・・・。
中に辿り着いて、ロビーの椅子でしばし休憩。平日だからか閑散とした印象。ホールなどあって、本日の予定に、何々家の結納がひとつ。結納かあ、そういう土地柄なのかあ。

さてと。廊下にも資料が掲示してあって、それをみながら、いよいよ博物館へ。
受付で料金を払って、見ると、つづれの着物がある。藍色が美しい。展示室では、地域の歴史の概観の展示。津軽鉄道のコーナーで、懐かしい硬い切符に日付を入れられるようになっている。もちろん切符には博物館と書かれている。記念に一枚。うれしい趣向でした。
隣りの展示室で、ようやくこぎんに会えた。それも、大半が目の前にぶらさがっている。
こぎんに藍染めを施した、染めこぎん。一度刺した上からさらに刺し、温かみを増そうとした重ねこぎん。細かい模様、刺し手の息遣い。写真では決してわからないものを存分に感じた。中でもきれいなものは殆ど残っていないと聞いている三縞こぎんの、刺し糸も白く生地も刺し方もきれいな一着に出会うことができて、来たかいがあった。
つづれ刺しも含めて十何着かの着物に、たっぷり1時間以上かけていたので、ロビーで受付の人に「お好きなんですね」と声をかけられて。廊下の掲示資料のコピーをいただいた。千葉から来たというと驚かれた。地元の人はこないけれど、埼玉からいいものを見ようと来たというご夫婦もいたらしい。同類はいるんだね。遠いから、あこがれもあるのかもしれないね。
向かいのショッピングセンターに行って、中華屋で、ざる中華を頼む。さて、どうやって帰ろうか、と思案しながら、食べ終えると、雨が降ってきた様子。そういえば、お天気下り坂の予報、待てば 町のバスで駅へ便があるのだけれど、本降りになる前に戻った方がいいなあと、もと来た道を引き返すことにする。パラパラと降っていた雨、気がつくとあがっていた。
駅に着き、時間を持て余す。でも、バスを待っていたら、青森へ戻るのはすっかり夜になることを知って、今日の動きはいい方に向かっていたなあと。
   津軽鉄道の旅 -復路-
ずっと駅事務所の前で座っていたのをみかねてか、時間より早く、乗りますか?と声をかけられる。
切符を買って、電車の人となる。
切符

■硬券の切符

余裕もあったので、ひとり車中をじっくりながめる(車体もこの時撮影)。
冬はストーブ列車、夏は風鈴列車、秋は鈴虫列車が走るそうだけれど、今は端境期。
車中

■ここにもう鈴虫がいるの?

車中のあつらえがものめずらしい。右側には、なぜか本が並んでいたし、細かく言うときりがないほど。
運転席

■機関士に話し掛けないで下さい…電車でないのね、運転手でないのね。

ワンマン運転だから、だけど、あまり使われてなさそうな、整理券や料金箱。
料金箱

■バスとおなじあつらえ。上に運賃表示板も

そして、JRの列車にもある、ドア開閉ボタン。慣れてなくて使うことなど考え及ばない私。
ドア

■この辺りではお決まり、ドア横の開閉ボタン

さて、若い運転士さんの運転で出発。前方をのんびり眺めつつ、意外に多いカーブに揺られつつ、単線の両脇に迫る風景を感じつつ。雨はどこへやら、陽射しがある。
途中、金木で団体さん乗車。中高年の方たち、おばちゃんの声が賑やか。二両連結の後ろの車両が団体用だって。
五農前では、高校生が大勢。後ろは団体用だから乗らないでと、運転士さんが席を離れて走る。戻ってきて高校生で満ちた車両に乗りこむ運転士さん。なんだか不思議な風景。
こうして、五所川原へ戻り、再び元来たルートで青森駅へと向かった。
   青森市街の夜
この日のホテルを予約してなかったので、事前の情報からいいと思われるホテルに電話して、宿も決定。対応もよさそうで、やれやれ。
因みに、今朝のホテルは激安の部屋、別館だったのでホテルの人の目が届かずセキュリティーは問題、だけど禁煙フロアのツインの部屋に泊まれて、ラッキー。
ホテルで一休みした後、街へ食事しにいく。外へ出ると土砂降り、ちょっと迷ったが、ホテルのイタ飯はいやで、出かける。
アーケード街、定食屋やら来る時いくつか目にしていたけど、何だかピンと来なくて、ウロウロ。青森らしいものは出てきそうだけど人の一人もいないお店に入る気になれないし。と思いあぐねて、ふと横の通りに進んでみた。喫茶&レストラン?の何となく気になるお店があり、前を行きつ戻りつ、客がひとりいたこともあって、思い切ってドアを押す。
1Fはカウンターだけ。店主のおじさんがいい雰囲気、なんだかほっとする。座って、お勧めのものを訊ねると、ハンバーグがよく出ている、とこだわりがありそうなハンバーグの説明があって、あとピラフも、というので、ピラフを頼む。手際のよさが心地よい。海老だくさんのパラっとしたピラフ、なかなかよかったです。いや、欲を言えば野菜っ気があったらな、サラダでもいいから。などと思いつつも、いい時間をすごせて、それが何よりうれしかった。
ホテルに戻り、着替えもせずにそのまま明け方まで爆睡。点けっぱなしの電気、あっちゃ〜と思いながら消して、少し明るくなった外の光を入れるべく動いて、朝まで熟睡。
   稽古館行き
さすがに疲れている。朝食頼んでおいてよかったとつくづく。ありがちなバイキング、素朴だけど質がよいのがうれしい。割と安かったし。しかし青森らしいものは、味噌汁のめかぶくらい、あ、あと焼鮭、取らなかったな…。食の青森っ気には縁遠い。
さて、ギリギリの時間までいて、チェックアウト。駅前のバス乗り場へ。
市内循環バスに乗っていたが、あれ、目的地が出てこない。って、誰かに訊いておけばよかったのだけれど、完全におひとり様モードになっていた。失敗、とその時は思った。
でも、循環バスだから大丈夫、市内観光をしたと思えば。所要一時間ほど。パスを持つ人が多かったり、街の様子が感じられたり、時間に追われずにそういうのを感じるのもまたよし。
駅からタクシーに乗る。そして、バスでなくて正解と思い知る。目的地の前に着き、辺りの歩道が工事中、じゃり道の上、迂回しなければならなかった。カートをお供にしていたので、バス停から歩くのは大変。
歴史民俗展示館、稽古館。静かな館内、展示室に入ると、人力車、時計、パンフレット類。時間の流れが止まる。どれもじっくり立ち止まって、これではこぎんまで行きつかない、と思い直して進む。
一般展示のこぎんや菱刺しだけで充分に堪能。そして特別展示室で、袖など比べてみるとなるほどという違いがあったり、新発見。現代作品(タペストリー)には、生活着を作り上げるのとはまた違う気合に圧倒された。
こぎんの資料を買いこむ。カナダのパッチワークとの交換展の図録に、やっぱり一番近い手仕事は、刺しゅうではなくはぎれを継ぎ合わせるパッチワークなんだと納得。
日常用品も興味深かったけれど、途中休息スペースに大きな絵があって、思わず惹きつけらてしばらく動けなかった。後でもう一度みたときに、丸木位里、俊夫妻の作品と気付き驚いた。ここで出会うとは。
もっと長い時間いてもよかったのだけど、何だか胸が一杯。様々な思いを刻み付けて、稽古館を後にした。きっとまた来よう。
   名残惜しく
電車の時間まで、お土産を物色しがてら、再び駅前通りを行く。
昨日から気になっていたお店に入り、津軽ガラスの品々に見入る。迷った末にかわいい香立てを持ってレジへいくと丁寧に包んでくれた。ふと見ると、何だか見覚えのあるハガキがあって、思わず手にすると、昨年地元近くであった亡きこぎん作家の遺作展が、近々郷里の青森市内で行われるという。重なることのなかった縁を思った。

再び青森駅。海の気配を感じつつ電車を待つ。
青森駅ホーム

■「下りをご希望の方は駅係員へ」のエスカレーター表示

北海道から来た電車で、八戸に向かう。
駅を出てしばらくして気がつくと、向かい側の窓に海に沈むきれいな夕日。来た時は真っ暗で海もわからなかったっけなあ。最後に笑顔の青森に見送られたような気がした。

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